着物との出会い、着物を着る喜びもう1人の自分

始まりは「母の着物」

まさか自分が、生活の中で着物を着るようになるとは・・

高齢の母が施設に入居することが決まったとき、どうしても整理しなければいけない和服の数々がそこにありました。母にとっては思い出の一杯詰った着物や帯。それをどうしたらいいのか・・。

簡単に処分できる訳もないですよね。母の気持ちもよく分かるし・・

そうは言っても、私も姉たちも受け継ぐ気持ちはほとんどありませんでした。住宅事情からも結局数える程しか手元には置けない訳ですし、他に引き取ってくれるような人もないし・・と。ほんとに悩みあぐねていました。

それがある時、受け継ぐ意思もまるでなかった着物に対して、自分の気持ちに変化が起こったのです。それは・・

50歳を目前にし(確か47、8才)普段のちょっとしたおしゃれ着には何を着たらいいのか困っていた時でもありました。何を試着してもパッとしない自分の姿にがっかりし、服を選ぶ楽しみさえすっかり失せていました。

そんな時に母の着物を目の前にして、たまたま一番上に重ねられていた紬(当時は紬か何なのかも分からなかった)を一枚手に取って肩にそっと羽織って見た時・・

しっくりと馴染んだ自分に驚いてしまいました。あの時のドキドキ感は今も忘れません。顔色がパッと明るくなったのです。まさにこの時を待っていたかのように。

着物の持ってるパワーに魅せられたのか、一気に好きになってしまった瞬間だったのでした。これからはコレ(着物)♪そう思いました。お調子者ですね(笑)

「着るものとして、たまには和装のお洒落もいいんじゃない?」
「普段に着る着物なら、自由で気軽に自分らしく装うことが出来るかもしれないよ」
「ムリせずに可能な範囲で生活に取り入れてみたらどう?」  
「お母さんもきっと喜ぶよね!」 

と考えていました。
結果、全てではないにしろ出来るだけの確認をしながら選り分け、整理をしました。それこそ感謝しながら「断捨離」し、残したものは私の家に一旦避難。そこからゆっくりと、私が「心ときめく」「着たいと思う」ものだけに少しずつ絞っていきました。

すでに認知症であった母でも、私が一部でも(本人には、気持ちを察して全てと言っていた)貰い受けていることに安堵と喜びを感じていたし、その着物を着ているのを見るとそれは大そう喜んでくれました。

よし!着物を着よう。着物から私らしさ発見

ウールや浴衣、半巾帯なら自分でも着られるし結べるので無理なく着物を取り入れることも出来ました。母が高齢になる前までは、普段から着物の生活だったからこそ私もなんとなく着られるようになっていたのかもしれませんね。

それでも帯なら半幅帯くらいしか結べませんでしたし、礼装の着物となるとちょっと・・。そんなことで、着付けの「キモ」的なこと、お太鼓結びの「コツ」をつかみたくて「着付け教室」に確か4、5回も通ったでしょうか。

同時に、体に着物が馴染むよう(着物に体が馴染むよう 笑)、家に居る時は着物を着て過ごすようにしていました。ちょっとした外出にも勇気を出して和服で!
色んな意味で、「慣れる」「馴染む」を練習した日々でした。

更に、もっと着物を着る機会が欲しいと思って日舞(現代舞踊)まで習い始めたのには自分でも驚いています。本当は元々大好きだったんですよね日舞。

先輩達には舞踊のことだけではなく着方のポイントも得ましたし、試行錯誤しながら自分なりの経験も積むことができました。
分からないがゆえの失敗・・うっかり恥ずかしかった経験もありますよ。

そんなことも今となっては楽しい想い出です。
初めのころは着物を着ていると、「どうしたの?何かあるの?」なんてよく言われたものですが・・(誰もが経験してますよね)

その後、周りに「着物の私」が認知されてしまうと今度は逆に「あれ?今日は着物じゃないんだね。なんで着ないの?」なんて言われたりも(笑)そんな周りの反応も面白いものです。

着物をきっかけにして、どんどん和の世界に引き込まれて生活から生き方まで変化。

これって着物好きな人なら自然の流れじゃないでしょうか?着物を着る「もう1人の自分」というふうに解釈しても楽しいですよね。

母の着物に魅せられたきっかけが、自分らしさを見出せたきっかけだったとも思っています。そしてそんな私を母が一番喜んでくれていると信じています。

着物本 昔のきものにおしえられたこと